「https://mindful-health.co.jp/info/wp-content/uploads/2022/01/yuris-alhumaydy-mSXMHkgRs8s-unsplash.jpg」のアイキャッチ画像 運動不足が脳萎縮を加速する?体力がないと脳が老化するって本当?

運動不足が脳萎縮を加速する?体力がないと脳が老化するって本当?

あなたは、健康や美容のために定期的な運動を行っていますか?「忙しい」「運動が苦手」などの理由で、運動不足になっている人も多いかもしれません。

実は、運動には理想的なスタイルや健康を保つだけでなく、脳や認知機能を高める働きもあります。アメリカの研究によると、運動習慣がない人は脳が萎縮しやすいことも分かっているのです。

この記事では、運動と脳萎縮の関係について解説します。運動によって脳機能が向上した実例も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

脳萎縮と運動不足の関係

アメリカで1583人を対象に行われた20年間の追跡調査によると、体力がない人は脳萎縮が加速しやすいことが分かりました。

2016年に米国神経学会(AAN)が発行する医学誌「Neurology」に発表された論文からの紹介です。

体力がないと脳萎縮が加速しやすい

40歳の参加者にランニングマシンで走ってもらい、体力を測定。そして脳状態をMRI(磁気共鳴断層撮影)装置で検査しました。

20年後、再度脳の大きさを測定したところ「最も体力がなかったグループ」は脳の容量が少なかったのです。「最も体力が高かったグループ」と比較すると、老化がおよそ2年分進行していたことになります。

この研究における「最も体力がなかったグループ」とは、ランニングマシンで走ったときの「心拍数増加」「拡張期血圧の上昇」が見られた人たちです。運動するとすぐに心拍数が上がり、息切れしてしまう人は、運動不足で体力が衰えているかもしれません。

運動不足は高血圧や認知症リスクを上げる

運動不足の人は「高血圧」になりやすいことも分かっています。

さらに、脳萎縮によって「認知症」リスクが高まることも分かっているのです。

有酸素運動を習慣化することで、血圧は自然に下がっていきます。認知機能の低下も予防できるので、できるだけ毎日の運動を続けることが大切です。

どうして運動すると脳が活性化するの?

運動すると全身の血流が上がり、脳の血流も高まります。すると神経成長因子(BDNF)や、記憶力を高める物質が増加しやすくなるのです。

運動によって脳血流が増える

運動して心拍数が上がると全身の血流量が増えるので、脳の血流も増えて活性化します。

さらに定期的な運動習慣のある人は、記憶を司る「海馬」の血流量が増加し、記憶力が上がったという研究もあります。

運動によって神経の成長因子が増える

運動すると「BDNF(脳由来神経栄養因子)」が多く分泌されます。

神経と神経は「シナプス」で繋がっており、その間のやりとりは神経伝達物質が行います。「BDNF(脳由来神経栄養因子)」はシナプスを大きくし、新しい枝を出してシナプスを増やす働きがあるのです。

その結果、神経細胞の数は変わらなくても、細胞の働きが強化されていきます。

さらに「BDNF(脳由来神経栄養因子)」は、細胞内の遺伝子を活性化。神経伝達物質の材料となるタンパク質を多く作るように指示を出したり、受容体の働きを高める効果もあります。

「BDNF(脳由来神経栄養因子)」は、とくに有酸素運動によって飛躍的に増加することが分かっています。つまり、運動によって脳細胞の働きをよくする物質がどんどん増えていくということです。

運動によって記憶力が高まる

運動をすることで、記憶力を高める「エンドカンナビノイド」という物質が増えます

「エンドカンナビノイド」とは、脳内麻薬ともいわれる物質です。幸福度を上げる作用や、海馬に作用して記憶力を高める作用があります。

脳には「血液脳関門」という部位があり、血流に乗った有害物質が脳に入っていかないようなシステムになっています。そのため、多くの細菌やタンパク質は通過できません。

しかし「エンドカンナビノイド」は「血液脳関門」を通り抜けるため、脳に入り込んで作用します。そのため、運動することで脳萎縮を食い止めるだけでなく、現在の記憶力上昇にもつながるのです。

運動が脳を活性化させた実例

アメリカのネーパーヴィル・セントラル高校では、ゼロ時限体育を取り入れることで生徒の成績が飛躍的に上がりました。

ゼロ時限体育が脳機能を上昇させた

ネーパーヴィル・セントラル高校の地下室には、ランニングマシンとエアロバイクが何台も並んでいます。

生徒たちは授業が始まる前の朝7時に集合し、ランニングを行います。タイムを測定しながらできるだけ早く、そして心拍数が185以上になるように走るのが目標です。

ゼロ時限体育を継続することで、生徒たちの成績は飛躍的に伸びていきました。心拍数を上げる短時間の運動を毎日繰り返す行為が、脳機能を向上させた実例といえるでしょう。

世界標準の学力テストで学校全体が1位に

ネーパーヴィル・セントラル高校は、TIMSSという世界標準学力テストの理科で1位を獲得しています。

つまり、この高校全体が理科で世界一ということです。ゼロ時限体育の取組により、生徒1人ひとりが学力の向上を実感しています。

運動習慣を身に着けて脳萎縮を防ごう!

年齢を重ねると、すべての臓器が老化していきます。

脳が萎縮するのも当たり前のことなので、若い頃と同じように脳機能が働かないことを受け入れる必要もあるでしょう。

ただし、若いうちから運動習慣を取り入れることで、脳萎縮のスピードをゆるめることは可能です。人生100年時代に最期まで自分らしく生きるためには、運動がとても役立ちます。

運動は脳萎縮を食い止めるだけでなく、今現在の身体機能や脳機能を高める働きもあります。目の前の忙しさをいいわけにせず、少しずつでも運動を取り入れてみてください。

この記事を書いた人 医師 山下あきこ

1974年、佐賀県生まれ。二児の母。内科医、脳神経内科専門医、抗加齢医学専門医、医学博士。アメリカ神経学会会員でもある。1999年…

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